就労先の安全配慮義務違反について
1.安全配慮義務とは?
使用者(会社)は,労働者が安全・健康に仕事ができるよう,適切な就労環境の整備・管理をしなければならない特別の義務を負っており,これを安全配慮義務(労働契約法5条参照)といいます。法が使用者(会社)にこのような義務を負わせているのは,労働者は,使用者(会社)側の指揮や命令に従って働かざるをえない以上,使用者側が労働者の安全や健康に特別に配慮すべきであると考えられるからです。使用者側が安全配慮義務に違反した場合,損害賠償責任(民法415条1項)を負うことになります。
2.安全配慮義務違反があった場合に対象となる賠償の範囲
労災保険による給付の場合(詳細は…「労災保険」のページに飛ぶ),①慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料)が給付されないばかりでなく,②休業補償も60%しか支給されませんし,③後遺障害が残っても,将来にわたる収入の填補(逸失利益)の支給はありません。一方,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の場合、①~③の損害が補填の対象となることが認められているので、より厚い補償を受けることが期待できます。
3.安全配慮義務の具体的内容
(1)物的措置
- 作業場の施設や機械の安全管理
- 安全衛生教育の実施
(2)人的措置
- メンタルヘルス(過重労働・セクハラ・パワハラ)対策の実施を含めた健康面の管理
- 適正な人員配置
- 労働時間、休憩時間、休日の適正管理
このように安全配慮義務の具体的内容はある程度類型化されてはおりますが,実際の事案では,職種や労務内容,労務提供場所等も踏まえた個別具体的な判断となってきますので,一定の類型に当てはまらないからといって,安全配慮義務の対象にならないということにはなりません。また,どの程度の義務を講ずべきであったのかという問題についても,個別の事情を踏まえた判断になります。なお,安全衛生面においては,労働安全衛生法の厚生労働省の省令が一応の目安になると考えられます。
4.安全配慮義務に関する裁判でよく問題になるケース
(1)「使用者」の範囲
労働契約法5条を見ると,安全配慮義務を負うのは「使用者」とされていますが,一体ここには,どのような人が含まれるのでしょうか?
そもそも,使用者側に安全配慮義務を負わせようとする趣旨は,上述した使用者側と労働者側の立場の違いにあります。つまり,労務環境の安全性は,使用者側の采配に依拠せざるを得ない色彩が強いという理由が使用者側に安全配慮義務を負わせる最も大きな理由になります。このことに鑑みれば,労働契約法5条の「使用者」には,労働者と直接の契約関係にある使用者だけでなく,その他労働関係上の指揮監督権を有する者も含むと解釈することができます。
実際,建設現場の元請業者に対し,下請業者の従業員への安全配慮義務を認めた判例(最判昭和55年12月18日)や親会社に対し,子会社の従業員への安全配慮義務を認めた裁判例(長野地裁昭和61年6月27日),出向先の会社に対し,出向元の従業員への安全配慮義務を認めた裁判例(昭和49年3月25日)等があります。
(2)労働者側の過失
損害の発生や損害の拡大について被害者側に落ち度が認められる場合,その落ち度の度合いに応じて,損害賠償額の減額調整がなされます。このような制度を過失相殺といい,民法418条や722条2項に規定されております。
安全配慮義務に関する裁判では,事業主(会社)から過失相殺の反論がなされることが多く,よく争われる論点です(詳しくは…「類型別の使用者の賠償責任」に飛ぶ)。
(3)損害額の算定
安全配慮義務に関する裁判では,損害額の算定についてもよく争われます。具体的には,後遺障害の等級認定や労働能力喪失率,逸失利益(将来得るはずであった利益)算定のための基礎収入の額等,交通事故でも頻繁に争われる争点と共通している点が多いです。そのため,安全配慮義務に関する裁判においても,医学的知見を踏まえた適切な主張をしていくことが重要であり,労災認定の申請や交通事故の案件を多数取り扱う事故・傷害を専門とする弁護士に依頼すべきだといえるのです。
弁護士法人グレイスでは,労災保険申請の段階から,安全配慮義務違反を理由とする事業主(会社)への損害賠償請求まで一括して対応させていただきます。さらに,弁護士法人グレイスには医学的知見を備えた弁護士・スタッフが揃っており,労災保険申請の段階から,医師に対して,後遺障害立証に必要な検査等の依頼をしたりと,より高額な損害金獲得に向けた適切なサポートをさせていただきます。
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