目次
1 障害補償給付とは
(1)業務中や通勤中の事故原因で負傷した疾病が治療を行ったものの「身体に残存」した場合に、給付されるもの。
※残存した障害に対して、障害等級というものが認定されます。
(2)障害等級と給付内容
ア 障害等級について
障害等級は、労働災害補償保険法施行規則、別表第一の第1級から第14級まであります。後遺障害の内容によって認定される等級が異なりますし、症状が残存していても後遺障害として認定されない場合もあります。
イ 給付内容について
障害等級第1級から第7級までは、障害補償給付は「年金」形式で支払われます。
他方で第8級から14等級までは、障害補償給付は「一時金」形式で支払われます。
給付内容については、表を確認してください。
厚生労働省のホームページでも障害(補償)等給付の内容の記載があります。
【労働災害補償法・障害補償給付一覧】 | ||||||||
障害補償給付 | 障害特別支給金 | 障害特別年金 | 障害特別一時金 | |||||
第1級 | 年金 | 給付基礎日額313日分 |
一時金 |
342万円 |
年金 |
算定基礎日額 313日分 |
||
第2級 | 年金 |
277日分 |
一時金 |
320万円 |
年金 |
277日分 |
||
第3級 | 年金 |
245日分 |
一時金 |
300万円 |
年金 |
245日分 |
||
第4級 | 年金 |
213日分 |
一時金 |
264万円 |
年金 |
213日分 |
||
第5級 | 年金 |
184日分 |
一時金 |
225万円 |
年金 |
184日分 |
||
第6級 | 年金 |
156日分 |
一時金 |
192万円 |
年金 |
156日分 |
||
第7級 | 年金 |
131日分 |
一時金 |
159万円 |
年金 |
131日分 |
||
第8級 | 一時金 |
503日分 |
一時金 |
65万円 |
一時金 |
503日分 |
||
第9級 | 一時金 |
391日分 |
一時金 |
50万円 |
一時金 |
391日分 |
||
第10級 | 一時金 |
302日分 |
一時金 |
39万円 |
一時金 |
302日分 |
||
第11級 | 一時金 |
223日分 |
一時金 |
29万円 |
一時金 |
223日分 |
||
第12級 | 一時金 |
156日分 |
一時金 |
20万円 |
一時金 |
156日分 |
||
第13級 | 一時金 |
101日分 |
一時金 |
14万円 |
一時金 |
101日分 |
||
第14級 | 一時金 |
56日分 |
一時金 |
8万円 |
一時金 |
56日分 |
2 会社に使用者責任・安全配慮義務違反がある場合の慰謝料額
(1)慰謝料とは、被害者受けた精神的苦痛に対する賠償です。
会社に責任がある場合には、会社に対して請求することが可能です。
(2)労災保険と慰謝料について
ア 労災保険からの給付は、療養(補償)等給付、休業(補償)等給付、障害(補償)等給付、遺族(補償)等給付、葬祭料等などの給付がありますが、「慰謝料」の給付は一切ありません。
イ 慰謝料の算定について
慰謝料の相場としては、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」というものをベースに判断されることが多いです。
交通事故の書籍ではありますが、過去の裁判例の蓄積として裁判所の認定「相場」が分ります。ただし、個別的な事情で増減することがあります。
①傷害慰謝料の相場
お怪我の内容や治療期間の内容によって慰謝料額が変わります。
【傷害慰謝料】 | |||||||
別表1(他覚的所見がある場合、骨折等) | |||||||
入院期間 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
|
通院期間 |
53万 |
101万 |
145万 |
184万 |
217万 |
244万 |
|
1月 |
28万 |
77万 |
122万 |
162万 |
199万 |
228万 |
252 |
2月 |
52万 |
98万 |
139万 |
177万 |
210万 |
236万 |
260 |
3月 |
73万 |
115万 |
154万 |
188万 |
218万 |
244万 |
267 |
4月 |
90万 |
130万 |
165万 |
196万 |
226万 |
251万 |
273 |
5月 |
105万 |
141万 |
173万 |
204万 |
233万 |
257万 |
278 |
6月 |
116万 |
149万 |
181万 |
211万 |
239万 |
262万 |
282 |
7月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
8月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
9月 |
139 |
170 |
199 |
226 |
252 |
274 |
292 |
別表Ⅱ(他覚的所見がない場合、むちうち損傷・打撲など) |
|||||||
入院期間 |
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
|
通院期間 |
35万 |
66万 |
92万 |
116万 |
135 |
152 |
|
1月 |
19万 |
52万 |
83万 |
106万 |
128万 |
145 |
160 |
2月 |
36万 |
69万 |
97万 |
118万 |
138万 |
153 |
166 |
3月 |
53万 |
83万 |
109万 |
128万 |
146万 |
159 |
172 |
4月 |
67万 |
95万 |
119万 |
136万 |
151万 |
165 |
176 |
5月 |
79万 |
105万 |
127万 |
142万 |
158万 |
169 |
180 |
6月 |
89万 |
113万 |
133万 |
148万 |
162万 |
173 |
182 |
7月 |
97 |
119 |
139 |
152 |
166 |
175 |
183 |
8月 |
103 |
125 |
143 |
156 |
168 |
176 |
184 |
9月 |
109 |
129 |
147 |
158 |
169 |
177 |
185 |
②後遺障害慰謝料
残存した後遺障害の内容に応じて慰謝料額が変わります。
労災事故でも「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」をベースに判断されることが多いですが、後遺障害等級と慰謝料額がイコールとは限りません。
障害等級 |
裁判基準 |
1級 |
2800万円 |
2級 |
2370万円 |
3級 |
1990万円 |
4級 |
1670万円 |
5級 |
1400万円 |
6級 |
1180万円 |
7級 |
1000万円 |
8級 |
830万円 |
9級 |
690万円 |
10級 |
550万円 |
11級 |
420万円 |
12級 |
290万円 |
13級 |
180万円 |
14級 |
110万円 |
3 労災保険と逸失利益
逸失利益とは、労災事故が無ければ将来得られるべきお金をいいます。
労災保険からも「障害補償年金」として逸失利益に係る一部の保障がなされます。
※一部というのが重要です。
4 解決事例からの解説
(1)事故の概要
工場に勤務していた被災者が、圧力容器の修理を依頼され溶接作業を行った後に空気を注入したところ、圧力容器が爆発し、足を切断する等の重症を負った事故。
(2)後遺障害等級
障害等級併合2級
(3)労災保険からの給付と裁判所認定
労災保険からの給付額と裁判所が認定した損害額を比較しています。
差額は「6574万5179円」です。労災保険と実際の損害額との「差」です。
労災保険からの給付 |
裁判所の認定 |
||
療養(補償)給付 |
2181万1251円 |
2181万1251円 |
|
休業補償給付 |
490万227円 |
→ |
1120万1328円 |
障害補償給付 |
923万7691円 |
→ |
4139万1769円 |
傷害慰謝料 |
0円 |
→ |
359万円 |
後遺障害慰謝料 |
0円 |
→ |
2370万円 |
合計額 |
3594万9169円 |
→ |
1億169万4348円 |
※被災者にも一定の過失が認定されたため、被災者が受け取った額は約8000万円となっております。
①休業補償について
休業(補償)給付と休業損害で約600万円の差が発生しております。これは、労災保険からの休業(補償)給付は、実際の休業損害の一部である60%しか支払われていないことが大きな要因です。
裁判所の認定においても、症状固定日までの休業はやむを得ないものとして、治療期間全日を休業期間として認定を受けています。
②障害補償給付について
障害補償給付として「年金」形式で受給している計算であり、口頭弁論終結時までの費用を算定しております。他方で、逸失利益については、症状固定時から67歳までの期間を対象に算定し約4100万円の認定を獲得しております。
③慰謝料について
労災保険からの慰謝料の支払は「0円」です。労災保険からは一部すら出ておりません。
今回は、長期間の治療を余儀なくされた事、障害等級として併合2級が認定されたことを加味した上で約2700万円の慰謝料が認定されています。
会社に責任がある場合には、労災保険からの給付では足りないということが一目瞭然ではないでしょうか。
(4)所感
労災保険は、労働者を保護する重要な制度であると感じております。しかしながら、労災保険からの給付のみでは適切な賠償金とは言えません。
今回の解決事例においては、被災者が務めていた会社は、安全配慮義務違反を認めない姿勢を貫いたため「裁判」という選択を取りました。
たしかに「裁判」という選択は、被災者にとって長期に渡りかつ精神的に疲弊するものであったかと思います。結果として、約8000万円近い賠償金額を獲得できたのは、被災者自身・被災者ご家族が諦めなかったことが大きいと感じます。
また、被災者及びそのご家族は、事故後の早い段階に事故に特化した弁護士に相談しなければいけないと思いご相談を決意されたそうです。
当時は、弁護士に相談するだけで高額な支払いをしないといけないと不安だったようですが、弊所へのご相談を経て安心されたとのことです。
弁護士法人グレイスでは、労災事故被害・交通事故被害のご相談料「無料」として対応させて頂いております。
早期相談が極めて重要です。労災事故かと思ったら弁護士法人グレイスの事故・傷害部へご相談ください。